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東京地方裁判所八王子支部 平成5年(ヨ)137号 決定

当事者

別紙当事者目録記載のとおり

主文

一  本件申立てを却下する。

二  申立費用は債権者らの負担とする。

事実及び理由

第一申立て

一  債権者らが債務者の従業員たる地位にあることを仮に定める。

二  債務者は、平成五年四月一日以降本案判決確定に至るまで、毎月二五日限り、債権者阿久津智子に対し、一か月あたり金一〇万七八〇〇円の、債権者柿沼恵美子に対し、一か月あたり金一三万八六〇〇円の金員を仮に支払え。

第二事案の概要

債務者(以下「会社」という。)は、その従業員である債権者らに対し、会社と債権者らとの間の雇用契約は平成五年三月末日をもって期間満了により終了し、更新を拒絶する旨の意思表示(以下、「本件更新拒絶の意思表示」あるいは「本件更新拒絶」という。)を行った。

会社の主張は、要するに、第一には、会社と債権者との間の雇用契約は期間の定めのある契約であり、就業規則第二六条二号に基づき、約定の期間の満了により終了した、第二には、仮に、会社と債権者らとの間の雇用契約が期間の満了のみを理由として当然には終了しないとしても、会社は、不況による受注の減少に基因する売上げの減少が原因で収益が減少し、多額の経常赤字を出す見込みになるという危急存亡の非常事態にあり、会社の存続をはかるため人員を削減する方針の下、本件更新拒絶を行ったもので、本件更新拒絶には合理性があると主張するものであり、これに対して、債権者らは、会社と債権者らとの雇用契約は、更新を重ねあたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在していたのであるから、期間の満了のみを理由として終了するものではなく、本件更新拒絶の意思表示は実質的に解雇の意思表示にあたり、その効力については解雇権濫用の法理が類推適用されるべきであるところ、会社には整理解雇の必要性がなく、整理解雇を回避するための努力も尽くされておらず、人選の合理性もなく、かつ、労働者との協議もなくなされたものであるから、本件更新拒絶は濫用にわたり、あるいは信義則に反し無効であると争う。

第三当裁判所の判断

一  債権者らの雇用契約の性質

疎明資料及び審尋の全趣旨によれば、次の事実が一応認められる。

1  会社は、東京証券取引所一部に上場された資本金三二億四〇〇〇万円の電子光学機器、分析機器、半導体関連機器、産業機器及び医用機器などハイテクノロジー製品の製造販売を目的とする会社である。会社は、肩書住所地に本社及び製作所を有し、また全国に支店等を有するほか、関連会社や海外現地法人を有しており、会社の従業員数は約二〇〇〇名、関連会社の従業員数は約八〇〇名である。

2  会社は、単純定型的な補助業務を遂行させ、かつ、会社の必要に応じて随時雇用量を調節することのできる従業員を雇い入れる目的で、昭和五六年四月一日、正社員に適用される就業規則とは別に、新たに「パートタイマー就業規則」を制定し(なお、パートタイマー就業規則の制定手続に違法な点があったとは窺われない。)、いわゆるパートタイマー制度を設けた。右パートタイマー就業規則によれば、会社におけるパートタイマー(以下「パートタイマー」という。)とは、日々雇い入れられる者または六か月以内の期間を定めて雇い入れられる者であって、一日または一週間の所定労働時間が一般社員よりも短い者とされており、その労働時間や時間給による賃金は個別の契約において定められ、退職金の支給はなく、契約期間の満了が退職事由のひとつとされ、資格制度、職位制度、人事考課制度、教育制度の適用がないなど、正社員とは異なる取扱いをされている。他方、右パートタイマー就業規則は、一年間引き続いて勤務し一定の出勤率となった者あるいは二年間引き続いて勤務した者に対しては年次有給休暇を与えるなどと規定し、また、会社は勤続年数に応じて賃金を増額させるなど、雇用期間がある程度長期継続することを予想した規定や取扱いもなされている。

3  パートタイマーは、会社の各部署の業務上の必要に応じて、当該部署の所属長の決定及び人事部長の承認の下に、通常、折り込み広告による募集等によって募集され、応募者は履歴書の提出を義務付けられるほか、求人した部署の幹部職員及び人事部の採用担当者との面接、就労予定先の職場見学等職場紹介、パートタイマー就業規則の説明、交付、労働時間、出退勤時間、仕事内容等についての合意及び健康診断を経て雇用契約が締結されており、職場採用の人員として正社員とは異なる簡易な採用手続で雇い入れられる。会社とパートタイマーとの間で締結される雇用契約書は、パートタイマー雇用契約書と題され、雇用期間、職種、労働時間、休憩時間、賃金についての各定め及びパートタイマー就業規則に服する旨が記載されている。債権者らも、右の手続を経て、パートタイマーとして会社に採用された。

4  会社においてパートタイマーが担当している業務は、一般的には、単純で定型的な補助業務であるが、臨時的業務ではなく、恒常的業務である。

5  パートタイマーとの契約期間満了日は、三月三〇日と九月三〇日に合わせられ、期間満了時における契約更新は、四月一日からの更新については、それに先立ち、パートタイマー及び所属長の双方に異存がなければ更新することを合意し、正社員の定時昇給額の決定時期等との関係で五月に、必ず人事部長とパートタイマーが記名ないし署名及び押印をして新契約書を作成し、一〇月一日からの更新については、それに先立ち、パートタイマー及び所属長の双方に異存がなければ更新することを合意し、必ず八月ないし九月に、右と同じく新契約書を作成して行われていた。

6  債権者阿久津智子(以下「債権者阿久津」という。)は、平成四年二月一二日、会社との間で、雇用期間平成四年二月一二日から同年三月三一日まで、職種庶務事務、労働時間午前八時五〇分から午後四時五〇分まででうち実働時間は七時間、時給税込七四〇円とする雇用契約を締結してパートタイマーとして雇い入れられ、その後、雇用期間六か月、時給税込七七〇円、その他の労働条件は従前と同じとして、計二回雇用契約の更新を行い、会社が製造販売する装置の取扱説明書、図面等の製作発行や技術情報の管理等を行う本社技術資料部に所属して、一般事務に従事していた。

債権者柿沼恵美子(以下「債権者柿沼」という。)は、昭和五五年右技術資料部においてアルバイトとして働き始め、昭和五九年二月一日、会社との間で雇用契約を締結してパートタイマーとして雇い入れられ、その後平成二年三月三一日までは、雇用期間六か月、職種トレース、労働時間午前九時二〇分から午後四時二〇分まででうち実働時間六時間、時給税込八一〇円から八五〇円、平成二年四月一日からは、職種トレース及びCADオペレーター、労働時間午前九時二〇分から午後五時二〇分まででうち実働時間七時間、時給税込八七〇円から九九〇円、その他の労働条件は従前と同じとして、計一八回雇用契約の更新を行い、右技術資料部に所属して、設計者が書いた図面類を清書する仕事であるトレースや立体図面等を製図する仕事であるCADオペレーター等の業務に従事していた。

以上、一応認められる事実によれば、債権者らの雇用契約は六か月の期間の定めのある契約と一応認められ、かつ、債権者らが主張するように、あたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在しており、期間の定めのない契約と同視すべき関係にあったとは到底いえないが、パートタイマーが従事した業務は臨時的性格を有するものではなく、その雇用契約については、労使双方ともある程度の継続を期待していたものであり、実際、債権者らの雇用契約も更新が重ねられていたのであるから、債権者らにおいて、ある程度雇用の継続を期待することに合理性を肯認でき、よって、解雇に関する法理を類推し、人員削減を行うこともやむをえないと認められるような特段の事情が存しない限り、期間の満了のみを理由に債権者らの雇用契約が終了したとして、その更新を拒絶することは濫用にわたり、あるいは信義則違反として許されないと解される。もっとも、前に一応認定したとおり比較的簡易な採用手続で短期の有期契約を締結しているパートタイマーに対する更新拒絶の効力を判断すべき基準は、終身雇用の期待の下に期間の定めのない雇用契約を締結している正社員を解雇する場合とはおのずから合理的な差異があるべきこともいうまでもない。

二  本件更新拒絶の効力

1  疎明資料及び審尋の全趣旨によれば、会社が本件更新拒絶をなすに至った前後の経緯は、おおよそ次のとおりと認められる。

(一) 会社は、平成三年度(平成三年四月一日から平成四年三月三一日まで)後半より、国内外の景気後退に基因して市場が低迷し競争が激化したため、同年度の経常利益が三億一四〇〇万円(対前期比五七・三パーセント減)、当期利益が一億一六〇〇万円(対前期比八一・七パーセント減)と減少し、かつ、受注高も減少して業績不振となり、これに対処するため、平成四年四月二一日には、受注・売上げの確保、原価の削減等を柱とする事業計画を作成して全従業員に周知せしめ、その努力を促した。

(二) 会社は、平成四年五月二一日東京証券取引所において、平成四年度中間期の売上高二二五億円、中間経常利益二億円、中間当期利益二億円、中間配当二円、年間売上高四八〇億円、年間経常利益四億円、年間当期利益四億円、年間配当四円(前期年間配当に比し一円の減配)との平成四年度業績予想を公表したものの、引き続く不況による国内外の需要の減少のため受注が伸びず、全社に対して販売体制の強化、効率・生産性の向上、経費の削減等その対応を指示し、努力を促すなどしたが、結局、平成四年度中間期の業績は、会計処理の変更に伴う中間経常利益五億一五〇〇万円の増加分及び中間当期利益七億九三〇〇万円の増加分を含めても、中間売上高二二二億五四〇〇万円(対前年同期比七・五パーセント減)、中間経常利益二〇〇〇万円(対前年同期比九四・九パーセント減)、中間当期利益一億三三〇〇万円(対前年同期比四〇・四パーセント減)、中間配当ゼロとなり、また、受注高も減少していたことから、平成四年度年間業績予想も、売上高四一〇億円、経常損失二〇億円、当期損失二〇億円、配当ゼロと修正するに至った。さらにその後、平成五年になっても需要の低迷は続き、会社は、平成五年二月一九日、再び年間業績予想を修正して、売上高四〇〇億円、経常損失三一億円、当期損失三四億円と見積もるに至った(なお、平成五年度決算の結果、売上高四〇二億三七〇〇万円、経常損失三〇億八七〇〇万円、当期損失三一億四五〇〇万円、配当ゼロと確定した。)。

(三) 会社では、右中間決算及び年間業績予想を公表すると同時に、右のような事態に対処するため、平成四年一〇月二七日、会長及び社長の指示の下に再建委員会を発足させ、全社員及び会社に存在する労働組合に対して会社の置かれている現状認識と再建への理解と協力を求めつつ、再建委員会において、市場の状況から受注、売上げの伸びに期待することはできず、経費の削減、組織のスリム化等による再建を図るしかないが、正社員の雇用はできるだけ確保するとの方針の下に再建の基本となる再建計画の策定に着手し、平成四年一二月二四日、平成五年度は経常損失九億円にとどめ、平成六年度は経常利益六億円、平成七年度は経常利益三五億円をあげることにより、平成七年度までに累積赤字を一掃して自主再建を果たすとの基本方針の下、具体的には、営業体制の再編強化による受注の回復、技術力の強化、開発投資の効率化、不採算事業の見直し、材料費、経費、労務費、借入金の削減などを柱とする基本的な再建策を決定した。右経費の削減においては、福利厚生費などの固定経費の削減により、平成四年度七一億円の予算総額を平成五年度は六〇億円に、右労務費の削減においては、後記のとおり、五〇歳以上の部課長二五名の希望退職募集、平成五年度における幹部職員の昇給はゼロ、平成五年度における幹部職員の賞与は大幅抑制、残業は原則ゼロ、嘱託・パートタイマーの削減などの方法により、平成四年度一一六億円の予算を平成五年度は九〇億円にすることとされた。会社は、平成五年一月六日、右再建計画の概要を全社員に対して発表したが、その際、パートタイマーの削減等については公表しなかった。

(四) 人件費削減のため会社が実施しあるいは策定した諸施策としては、平成四年度新卒者の採用について当初五五名の予定であったところを平成四年七月までに内定していた一五名で打切り、初任給は前年度と同額として採用することにし、同様に、関係会社における新卒者の採用についても打切りを依頼して、当初計画六〇余名のところを計三九名にとどめさせ、平成四年一一月から残業規制(原則ゼロとし、技術開発、顧客へのサービスなど例外的な残業以外は承認しない。)を開始し、五〇歳以上の幹部職員に対し相当な優遇措置を付して希望退職者を募集し、平成五年三月一五日までにこれに応じた七名を退職させ、平成五年四月一日までに幹部職員及び一般社員合計一〇〇名余を関係会社へ出向させ、役員のうち二名を削減し、一名を降格させた。また、平成五年度における役員の報酬を削減し、その賞与をゼロとし、幹部職員の昇給についてはゼロ、その賞与、管理職手当を削減することとし、組合員の昇給については、電気連合の妥結率三・六パーセントを下回る二・一五パーセントで、賞与については年間本給比四か月で賃金交渉を妥結させたが、これらの措置によって、平成五年度は、前年度に比し、役員、幹部職員、一般社員ともに年収が約二四パーセントから約四・二五パーセント減少する見込みになった。

(五) 会社は、有期契約を締結している嘱託三七名中七名の更新を拒絶するとともに、前に一応認定した雇用形態にあるパートタイマーについても更新拒絶を行うこととし、平成五年一月五日現在、会社に就労していたパートタイマー九九名のうちから、検討の結果、清掃作業者、身障者及び製造部所属の一部の者など業務遂行上不可欠の人員等と判断された三七名については契約を更新し、その他の債権者らを含む六二名については更新を拒絶することを決定し、同月一八日から各パートタイマーへの告知を開始し、債権者らに対しても、それぞれ同月二〇日及び二一日に更新を拒絶する旨告知した。また、会社は、全日本金属情報機器労働組合(以下「組合」という。)に対し、同月二六日の団体交渉において、パートタイマー六二名の更新を拒絶する旨通知した。

会社は、更新拒絶したパートタイマーに対し、有給休暇の買上げ、求職活動のための欠勤を有給にするなど再就職活動支援のための措置をとるとともに、平成五年三月から退職手続を始め、改めて会社の状況を説明し、更新拒絶を了承した者については退職手続を行うなどしたが、同月五日の説明会の席上、組合から、債権者らの組合に対する同日付けの交渉委任状が提示されたため、債権者らを含む委任状提出者に対する説明を延期し、日を改めて、組合役員らの同席のもとで説明会を実施し、また同月二四日夜には債権者らの自宅を個別に訪問して説明を試みたが、結局、債権者ら二名の納得を得られず、同月二五日、債権者らに対し、予告手当相当分を含めた寸志を振り込むとともに、同月三一日をもって更新を拒絶する旨の通知を郵送し、平成五年四月一日から、債権者らの就労を拒否した。

2  これに対し、債権者らは、主に以下のような諸点を主張して、本件更新拒絶は濫用にわたり、信義則上からも許されず、無効である旨主張するので検討する。

(一) 債権者らは、会社及び関連会社は、債権者らパートタイマーを優先的に正社員として雇用する可能性を検討することもなく、平成五年度新卒者を採用していることからして、本件更新拒絶はその必要がなく、回避のための努力も尽くされていなかったなどと主張するが、新卒者の採用は会社の基幹たるべき正社員の採用であり、一方で債権者らを整理して、他方で同種のパートタイマーを新規に雇い入れた場合とは異なり、それが直ちにパートタイマーに対する更新拒絶の必要性を否定することにはならないのみならず、債権者らが、職務内容及び労働条件などにおいてパートタイマーとは異なる正社員として就労可能であったとの疎明がないこと、前に一応認定したとおり、会社及び関連会社は、当初の採用計画から採用数を減少し、平成四年七月の段階で既に採用が内定していた者らで採用を打切ったこと、パートタイマーの更新拒絶を回避するために既になされた採用内定を取り消すことまで要求することは相当でないと解されることなどの諸点から、右の点をもって、本件更新拒絶はその必要がなく、回避のための努力が尽くされていなかったということはできない。

(二) 債権者らは、会社は平成五年度において社員の賃上げ及び賞与の支給を予定しており、この賃上げの一部で債権者らの雇用を継続できたから、本件更新拒絶はその必要がなく、回避のための努力も尽くされていなかったなどと主張するが、前に一応認定したとおり、平成五年度においては、役員、幹部職員及び一般社員とも年収額において減収になる見込みであること、右昇給や賞与の支給は、賃金交渉の過程において諸般の事情を考慮したうえで出された経営判断であり、特別不合理な点も見当たらないことから、右の点をもって、本件更新拒絶はその必要がなく、回避のための努力が尽くされていなかったということはできない。

(三) 債権者らは、債権者らが所属していた技術資料部では、編集、翻訳、印刷用組版等の専門業務、CADによる立体図製作、英文の印刷用組版(DTP)などの仕事を関係会社あるいは外部からの派遣社員に行わせており、債権者らに対する更新拒絶の後も引き続き右派遣社員の使用を継続していること、会社の他部門においては新たに外注化した仕事もあること及び関係会社からの出向社員が就労を継続していることなどからして、本件更新拒絶はその必要がなく、回避のための努力も尽くされていなかったなどと主張するが、疎明資料及び審尋の全趣旨によれば、出来高払で支払われる外注費は予算費目のうちの経費に含まれるものであるが、会社は経費総額を削減し、右削減した予算の範囲内で業務上合理的で不可欠と判断された業務について外注を行い、また、関係会社からの派遣社員や出向者の受入れは会社の経営にも影響を及ぼすことを免れない関係会社における雇用を確保するという意味合いも有する措置として行っていることが一応認められるところ、その判断が不合理であると窺わせるような疎明もないこと、また、外注を止め、出向受入れを止めて、これらの者が担当していた業務を会社の社員やパートタイマーに行わせることが可能であり、かつ人員縮小後における業務の効率的運営の観点からも合理的であると窺わせるような疎明もないことに照らせば、右の点をもって、本件更新拒絶はその必要がなく、回避のための努力が尽くされていなかったということはできない。

(四) 債権者らは、会社がQC活動費等を削減していないことからして、本件更新拒絶はその必要がなく、回避のための努力も尽くされていなかったなどと主張するが、疎明資料及び審尋の全趣旨によれば、会社はQC活動費等を削減し、業務運営上有益であると判断した範囲で残存したことが一応認められ、その判断が不合理であると窺わせるような疎明もないから、右の点をもって、本件更新拒絶はその必要がなく、回避のための努力が尽くされていなかったということはできない。

(五) 債権者らは、パートタイマーについて、出向、一時帰休、勤務時間の短縮などの措置を採っていないことからして、本件更新拒絶はその必要がなく、回避のための努力も尽くされていなかったなどと主張するが、疎明資料(〈証拠略〉)によれば、会社においては、出向、一時帰休は終身雇用の期待の下に期間の定めのない雇用契約を締結している正社員のみに適用される雇用調整のための制度であることが一応認められるから、これをパートタイマーに適用する余地はないし、また、パートタイマー九九名中六〇名以上の更新を拒絶しなければならないような前認定の経営状態の下にあっては、勤務時間の短縮が有効適切な措置であったとは到底認められないのであるから、右の点をもって、本件更新拒絶はその必要がなく、回避のための努力が尽くされていなかったということはできない。

(六) 債権者らは、会社が各種引当金等内部留保金の取崩しや固定資産等の処分、利用等を行わず、また雇用調整助成金の申請も行っていないことからして、本件更新拒絶はその必要がなく、回避のための努力も尽くされていなかったなどと主張するが、本件当時、会社に、経営上取り崩すのが合理的と判断されるべき引当金等の内部留保金や処分しあるいは利用を図るのが合理的と判断されるべき固定資産等が存在したと窺わせるような疎明、会社が申請すれば雇用調整助成金の給付が認められたとの点についての疎明もなく、また、その取崩しや処分、申請等を行うことが、前に一応認定したような会社の業績悪化を打開するため、より有効適切な手段であったと窺わせるような疎明もないから、右の点をもって、本件更新拒絶はその必要がなく、回避のための努力も尽くされていなかったということはできない。

(七) 債権者らは、会社の製品分野は成長産業であり、今後十分景気回復の見通しがあるから、本件更新拒絶はその必要がなかったなどと主張するが、本件更新拒絶をしなくても会社の業績が好転したと窺わせるような疎明はないから、右の点をもって、本件更新拒絶はその必要がなかったということはできない。

(八) 債権者らは、更新を拒絶されたパートタイマーは会社や関係会社に就労していたパートタイマーのうちの一部の者であるところ、その人選は一方的で不合理であり、また、会社は会社及び関係会社に就労していたパートタイマーのうちから希望退職者を募集しなかったことなどからして、本件更新拒絶は回避のための努力を尽くさず行われたものであり、整理基準及び具体的人選も合理的でなかったなどと主張し、疎明資料及び審尋の全趣旨によれば、更新拒絶されたパートタイマーが会社及び関連会社に就労していたパートタイマーのうちの一部の者であったこと及び会社がパートタイマーのうちから希望退職者を募集しなかったことが一応認められる。しかしながら、会社は、前に一応認定したとおり、会社に就労していたパートタイマー九九名中、業務遂行上必要不可欠であると判断した三七名を除いた六二名を余剰人員として削減したものであるところ、仮に希望退職者を募集したとして、それによって右削減予定数が消化され、債権者らが更新拒絶を免れたと窺わせるような疎明はないし、また、残存させたパートタイマー三七名の選定が恣意的に行われたと窺わせるような疎明や、右三七名は主に清掃担当者や製造部所属の者ら債権者らが担当していた職種とは異なる職種の者達であるところ、債権者らと同職種のパートタイマーの中で更新拒絶された者と更新された者との振分けに不合理な点があったと窺わせるような疎明もないこと、債権者らパートタイマーはその各雇用契約において従事する職種を特定して会社に雇い入れられているところ、会社及び関連会社に就労していたパートタイマーの中から希望退職者を募ってその退職後、残ったパートタイマーについて、その同意を得て会社内で配置転換させ、あるいは別法人である関連会社へ転籍ないし出向せしめることが可能であったとの点、関連会社において会社の余剰人員となったパートタイマーを吸収する余地があったとの点、配置転換等が可能であったとして、それが人員縮小後における業務の効率的運営の観点からも合理的であったとの各点を窺わせるような疎明もないことに照らせば、右の点をもって、本件更新拒絶が回避のための努力を尽くさず行われたものであり、整理基準及び具体的人選に合理性がなかったということはできない。

(九) 債権者らは、会社の業績悪化は、会社の経営政策や労務政策の失敗に起因するものであるから、労働者を犠牲にする更新拒絶は許されないなどと主張するが、前に一応認定した事実によれば、会社の業績が悪化し合理化を必要とする事態に至った原因は、不況による受注、売上げの減少という外部的客観的要因に帰するところが多いと認められるのであるから、これを専ら経営側の責任であるとして、本件更新拒絶の効力を否定することはできない。

(一〇) 債権者らは、本件更新拒絶の意思表示をなすにあたって、会社が誠意を示して労働者の納得を得る努力をせず、かえってパートタイマーの自宅を個別に訪問して退職を強要するなど手続が信義に反していたなどと主張するが、前に一応認定した事実、疎明資料及び審尋の全趣旨によっても、本件更新拒絶に至った手続が信義に反していたとまで窺われる点は見当たらない。

(一一) 債権者らは、本件更新拒絶の意思表示は不当労働行為である旨主張するが、前に一応認定した事実、疎明資料及び審尋の全趣旨によっても、本件更新拒絶の意思表示が不当労働行為の意思に基づくものと一応認めるには足りない。

3  以上によれば、債権者らを含む六二名のパートタイマーに対して更新を拒絶する必要があるとした会社の判断には、解雇の法理を類推し、更新拒絶の必要性、回避のための努力、整理基準及び具体的人選の合理性、手続の相当性などの諸点から検討し、雇用調整が労働者に対して多大な不利益を与えることに鑑み、経営危機を乗り切るための最後の手段であるべきことを考慮しても不合理な点は見当たらず、本件更新拒絶もやむをえないと認められる特段の事情があったと一応認められるから、その一環としてなされた本件更新拒絶についても、濫用にわたり、あるいは信義則に反するとはいえず、これを有効と解するのが相当である。

三  結論

よって、本件更新拒絶の意思表示は有効になされており、これにより債権者らと会社との間の雇用契約は平成五年三月三一日をもって終了したと一応認められるから、本件申立ては、その被保全権利の疎明がない。

(裁判長裁判官 宇佐見隆男 裁判官 山野井勇作 裁判官 髙木順子)

〈別紙〉 当事者目録

債権者 阿久津智子

債権者 柿沼恵美子

右債権者両名代理人弁護士 鈴木亜英

同 杉井静子

同 二上護

同 竹中喜一

同 林勝彦

同 赤沼康弘

同 吉田健一

同 蔵本怜子

同 平和元

同 山本哲子

同 小林克信

同 長尾宜行

同 中村秀示

同 水口真寿美

同 河邊雅浩

同 井上洋子

同 鍛冶利秀

同 大熊政一

同 野澤裕昭

債務者 日本電子株式会社

右代表者代表取締役 江藤輝一

右債務者代理人弁護士 山本孝宏

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